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「共謀罪」法案に反対する高知の大学人声明(2017年5月31日)

 2017年5月31日、以下の通り、「『共謀罪』法案に反対する高知の大学人声明」を公表致しました。

 なお、声明文は安倍首相、金田法相、伊達参院議長、参院法務委員会あてに郵送致しました。

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     「共謀罪」法案に反対する高知の大学人声明


 本年3月21日、閣議決定された「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」(以下、「共謀罪」法案とする)が国会に提出されました。その後、「共謀罪」法案は、5月19日に衆議院の委員会で強行採決され、23日に本会議を通過しました。今後、参議院での審議を経て、可決・成立する見通しだとされています。
 われわれは「共謀罪」法の制定に対して強い反対を表明し、同法案の速やかな廃案を求めます。また、仮に成立した場合も、その廃止を主張し続ける所存です。
 われわれが「共謀罪」法案に反対する理由は大きく2つあります。1つは「共謀罪」法案そのもののもつ大きな危険性であり、もう1つは現政権の法案に対する不誠実な姿勢です。

第一の問題点:「共謀罪」法案そのもののもつ大きな危険性

 すでに、研究者・実務家などを中心に、多くの人々から「共謀罪」法案に対する反対の声が上がっています。例えば、本年2月1日には呼びかけ人・賛同者として名だたる研究者162名が名を連ねる「共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明」が、3月31日には「いわゆる共謀罪の創設を含む組織的犯罪処罰法改正案の国会上程に対する会長声明」が日本弁護士連合会会長名で出されています。
 われわれも、この二つの声明と同様の理由から、「共謀罪」法案を極めて危険な内容を有するものであると捉えています。そして、制定・施行されてしまった場合、市民の自由や権利が大きく損なわれることになるのではないかという強い危惧を抱いています。
 「共謀罪」法案が有する問題点、施行された際にさまざまな場面で生じるであろう市民生活への圧迫の事例については、これまでに多くの指摘がなされています。ここでは、その一つ一つについては触れず、「原則的な問題」に限って述べたいと思います。
 さて、犯罪は次のような順序をたどって実行されると考えられています。犯罪の準備である「予備」、着手はしたけれど犯罪を成し遂げるに至らなかった「未遂」、そして犯罪を成し遂げた「既遂」です。現在の刑法では、原則として「既遂」が処罰の対象となります。とくに規定された犯罪についてのみ「未遂」や「予備」も対象となります。
 「共謀罪」法案の「共謀」とは、「予備」より前の段階を指し示す言葉です。つまり、「共謀罪」法案は、これまで対象とされていないかった「共謀」を犯罪の出発点とみなします。そして、実際上において、犯罪が実行されるはるか以前の「共謀したという事実」のみによって人を処罰するものです。
 この点のみからでも、「共謀罪」法案が、刑法による処罰の範囲を大きく拡大するものであることが分かります。これは決して「ちょっとした改革」などではありません。刑法そのものの改正に匹敵する「大きな変革」なのです。
 刑法はこれまで、社会の治安を保つことを主たる目的としながらも、同時に公権力によって市民の人権が侵されることを防ぐことも目指しながら発達し、さまざまな仕組みや制度を生み出してきました。近代刑法の基本原則は、罪刑法定主義と呼ばれています。これは、「犯罪として処罰するためには、何を犯罪とし、これをいかに処罰するかをあらかじめ法律により明確に定めておかなければならない」という考え方です。
 「共謀罪」法案は、犯罪が実行されるはるか前の段階で犯罪を認定して処罰しようとするものです。そのため、「何が犯罪か」についての定義は曖昧になります。そのため、「何が犯罪か」については、明確な基準がないままに官憲のみがそれを決めることになります。「共謀罪」法案は、人類がこれまで築き上げてきた刑法の基本原則に抵触し、基本的人権の概念をないがしろにする可能性が高いものなのです。

第二の問題点:現政権の法案に対する不誠実な姿勢

 さて、現政権は、刑法の根本原則に触れる「改革」である「共謀罪」法案について、真摯に丁寧な説明をなし、市民の理解を得ようと努めてきたといえるでしょうか。われわれはこの問いに「否」と答えざるを得ません。それどころか、そのような姿勢を微塵も見せることはなかった、と言わなければならないでしょう。
 第2次安倍内閣は、特定秘密保護法(特定秘密の保護に関する法律、2013年12月)、「安全保障関連法」(2015年9月)の成立に際して、不明瞭な説明、不誠実な対応、強引な議会運営を行なってきました。「共謀罪」法案をめぐっても、両法の成立時と同様か、あるいはそれ以上に不誠実な対応に終始しています。
 主権者たる国民に対して、ごまかしと虚偽に満ちた説明を繰り返した上、疑問には答えずにはぐらかしたままで済ませています。衆議院における審議でも、ぞんざいかつ投げやりな答弁を繰り返し、まともに議論をする姿勢を示しませんでした。国権の最高機関たる国会に対する敬意は感じられず、むしろそれを軽侮することを楽しむかのような態度を執り続けました。
 法案の内容を問わず、このような不誠実な姿勢を示すことは許されるべきものではありません。先に述べたように、「共謀罪」法案は、これまでの刑事法制の性格を変える可能性が高い、極めて重大な法案です。このような法案の制定過程で政権担当者がこのような不真面目な態度を示していることは、強く非難されるに値します。
 また、「共謀罪」法が成立した場合、その発動に際して、限定的・抑制的な運用とは正反対の野放図に職権を乱用するような運用がなされるのでないか、という危惧を覚えます。法が施行される時に、制定過程と打って変わって丁重で真剣な姿勢を示すとは考えられないのです。審議に際して示された「あのような態度」で「共謀罪」法が運用されると考えるべきでしょう。このような事態の下では、われわれの生活は官憲によって脅かされることになってしまいます。

 最後にもう一度繰り返します。われわれは「共謀罪」法の制定に対して強い反対を表明します。そして、同法案の速やかな廃案を求めます。また、この後「共謀罪」法が成立した場合にも、その廃止を主張し続けていきます。

2017年5月31日 声明呼びかけ人一同

声明呼びかけ人(五十音順)
青木宏治(高知大学名誉教授)、稲田朗子(高知大学人文社会科学部准教授)、岩佐和幸(高知大学人文社会科学部教授)、岩田裕(高知大学名誉教授)、内田純一(高知大学地域協働学部教授)、岡田健一郎(高知大学人文社会科学部准教授)、岡本博公(同志社大学名誉教授、高知工科大学経済・マネジメント学群教授)、小幡尚(高知大学人文社会科学部教授)、加藤誠之(高知大学教育学部准教授)、佐藤洋子(高知大学地域協働学部助教)、霜田博史(高知大学人文社会科学部准教授)、鈴木堯士(高知大学名誉教授)、田中きよむ(高知県立大学社会福祉学部教授)、種田耕二(高知大学名誉教授)、玉木尚之(高知大学人文社会科学部門教授)、玉置雄次郎(高知短期大学名誉教授)、中道一心(同志社大学准教授、元高知大学人文学部准教授)、中村哲也(高知大学地域協働学部准教授)、根小田渡(高知大学名誉教授)、原崎道彦(高知大学教育学部教授)、福田善乙(高知短期大学名誉教授)、松永健二(高知大学名誉教授)、峯一朗(高知大学理学部准教授)、武藤整司(高知大学人文社会科学部教授)、村瀬儀祐(高知大学名誉教授、高知工科大学名誉教授)、森明香(高知大学地域連携推進センター助教)、森田美佐(高知大学教育学部准教授)、吉尾寛(高知大学人文社会科学部教授)、横川和博(高知大学人文社会科学部教授)
(計29名:2017年6月15日現在)


【声明文をダウンロード・印刷できます(PDFファイル)】
https://goo.gl/1fd5P6

この声明に関する連絡先:声明事務局 kochianpo★gmail.com (★を@に置き換えて下さい)

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